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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)421号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人弁護士小林音八、同渡辺靖一の上告理由は別紙のとおりであつて、要するに原判決が本訴を不適法である旨を判示したのを非難するのである。

記録に徴するに、被上告人鹿児島県知事が昭和二九年一一月一日上告人に定置漁業権を免許するに際しその存続期間を昭和二九年一一月一日から昭和三一年八月三一日までとしたのに対し、上告人は本訴を提起して、右存続期間を昭和二九年一一月一日から昭和三四年一〇月三一日までと変更を求めるものであること明らかである。

漁業法二一条一項によれば、定置漁業権の存続期間は五年であるが、同条五項は「都道府県知事は、漁業調整のため必要な限度において」右の期間より短い期間を定めることができる旨を規定しているのである。五年より短い期間を定めるべきか、その期間をいかほどに定めるべきかについては、都道府県知事が漁業調整に関係のある諸般の事情を勘案して決定すべきであつて、この点について知事は裁量権を行使する余地があるものと解するを相当とする。もとより、定置漁業の目的を達することが事実上不可能なような極端な短い期間を定めた場合は、裁量権の限界を超えた違法な行為ということも出来るであろうが、そのような場合でも、上告人の本訴請求のように、存続期間を一定期間に変更することを求めるのは、裁判所に、行政庁に委された裁量権の範囲に立ち入ることを求めるものであつて、許されないものといわなければならない。所論恩給法上の訴訟は、裁定金額について行政機関に裁量の余地のない場合であつて、本件と場合を異にする。原判決の理由するところは、これと多少異るけれども、本訴を不適法としたのは結局正当であり、本訴が不適法である以上、上告理由中の他の論点について説明するまでもなく本件上告は理由がないものといわなければならない。

よつて本件上告を棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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